「子育てのゴールが見えた」と思っていました。
――来年はあかねが幼稚園に入る。その2年後にはめぐみも幼稚園だ。そうしたら、私一人の
時間ができるから、働こう。やっと働ける。
そんな矢先の妊娠。簡単には受け入れられませんでした。悩む、といっても、結論は決まって
る。ただ、自分をどう納得させるか。もう逃げられないと観念するまで、1カ月かかりました。
そんな申し訳ない始まり方の末っ子でしたが、妊娠期から「初めて」の体験をたくさんさせて
くれました。炊飯器の湯気が気持ち悪くなったのも、大好物のコーヒーが飲めなくなったのも
初めてでした。生まれてからも「こんなに育てやすい子は初めて!」
昇は寝かしつけもカンタン、よく寝るし、いつの間にか起きていて、なのに泣かない! 本当
にゴキゲンな子でした。子育てはツライものと思っていた私には、本当に驚きでした。そして
「楽(ラク)なことは楽しい!」3人目の余裕も加わり、初めて、にこやかな育児生活を堪能
しました。
3月に昇が生まれ、翌月に長女、あかねが入園しました。公立幼稚園だったので送り迎えも母、
弁当も毎日。風邪やら中耳炎やら、病院通いもしょっちゅう。毎日、幼稚園の時間に合わせて
生活することに必死でした。このころの記憶はほとんどありません。
そのころ、母乳の出が悪くなりました。私はへとへとだったのです。さんざん迷った挙句、昇
は3カ月でミルクに切り替えました。最初は嫌がったものの、ごくごくミルクを飲む昇を見て
ホッとしました。そしてじわじわと「私だけの体が戻ってきた」安心感が。
当時、4歳・2歳・0歳の母だった私は、5年前に長女を妊娠した時から、妊婦・授乳母・妊婦と
くりかえし、ずっと風邪薬も飲めない緊張状態だったのです。「これで夜更かしできる!」
幼稚園生活にも慣れて生活が落ち着いてきたころ、私はママ友とテニスを始めました。
今思うと、それが私のターニングポイントだったのです。
当時は、ちょっとした遊びを始めただけ、と思っていましたが。
私たちは、市のテニス連盟が運営する本気のテニスクラブに入会しました。そこはみなさんが
大会目指して練習し、飛び交うボールも威力十分です。そんなところに子ども連れなんて危な
い! 私たちは画期的な方法を考えました。テニスする人と保育する人を半々に分けて、交替
で練習に行く。つまり練習に行くときは大人だけでテニスに専念するのです。
子どもと離れるのは心配でした。特に、人見知りのめぐみは泣くだろうな。でも「大人だけ」
は大きな魅力でした。「そのうち慣れるよ。うちだって心配だよ」という声に押されて、エイ
ヤッて飛び込んでみたのです。
最初は、子どもたちみんな大泣きでした。昇はまだ1歳3カ月で、最年少は8カ月の女の子。でも
子どもたちの順応性はすごい! あっという間に楽しそうに遊び始めました。その姿に励まされ、
テニスに熱中しました。夜中に素振りしたり、テニス関連本を読みあさったり。こんなに楽しか
ったのは、子供を産んでから初めてでした。
テニスは、無我夢中になれる時間でした。頭が空っぽになる、それがこんなにもリフレッシュに
なるとは思ってもみませんでした。練習を終え家路を急ぐ時「子どものことを忘れてた」とちょ
っと申し訳なくて。私が満足した帰宅後は、子どもたちに優しくなれました。
楽しかったのは、テニスだけではありません。実は保育班の方が面白かった。テニスメンバーは
8人でしたから、4人は練習に行き、残る4人で8軒分の子どもたち18人を保育するのです。よその
子のおむつも替えるし、お昼ご飯も食べさせる。ケンカしたらよその子だって叱りつける。
ほとんど託児所です。
いろんな子がいました。いろんな親もいました。長時間を共にして、初めて気付くことがたくさん
ありました。集団の中で、家とは違うわが子の姿も見られました。うちの子、結構大丈夫なんだ。
心配してたけど、みんな似たようなものね。怒っちゃうのって、私だけじゃない・・・・。
それまではやはり、密室育児だったのでしょう。公園にも行っていたしママ友もいた。夫だって、
なんでも聞いてくれた。けれど、テニスを始めてからは以前の何倍も楽しくなりました。
昇は物心がつく前から集団の中にいてゴキゲンに育ちましたが、体が弱かった。熱性けいれんの
癖もありました。そんな不安もママ友と話せば軽くなります。すぐに手の出る子。噛む癖。偏食。
人見知り。子どもはそれぞれ何かしら持っていて、ママたちはみんな心配していました。当時は
「時間が、そのほとんどを解決してくれる」なんて知らず、不安をお互いに支えあっていたのです。
子育ては夫婦だけではできません。おじいちゃんおばあちゃんのヘルプもとても助かりますが、
私のように遠く離れてしまってはかなわないし、そこだけを頼りすぎるのも考えものです。
同じ状況の心を許せるママ友がいれば、子育ての世界は変わります。もう実感している方も多い
でしょう。ネットの中も楽しいけれど、リアルに、できれば近くにいるのがベスト。
私は、そんな友達に救ってもらいました。
「子育て」といいますが、一番育てられたのは「私」かもしれません。
私は今、母親としては15歳、実は・・・41歳。やっと「大人」が見えたような気がします。
|